特集 フォトエッセイ 「青い海と白い砂」 −113系のある風景−  Page 10

ボックスシートの電車や列車にあこがれた。東京を走る電車は物心ついた
時からすでにロングシートだった。だから、ボックスシートの電車に乗る
ということは、どこか楽しいところへ行くことを意味した。個室ではない
のだが、そこだけ四角く囲まれて、家族や友人だけの空間になった。そし
て窓の下についている小さなテーブルに缶ジュースや冷凍みかんをおいて
車窓を眺めながらそのジュースを飲んだり、みかんを食べたりする。時に
はお気に入りの小物を置いたりもする。
また、見知らぬ人と相席になっても向かい合わせの縁で、話をしたりする
ことができる。「どこから来たんだい?」「東京なんです。」「そりゃま
た遠くから来たね。」なんていう会話から始まり、すっかり気に入られて
家に泊まっていけや、なんていう話になったこともある。そんなボックス
シートが好きだ。

もしも、ロングシートの車両でビールなどを飲んでいたらどうだろうか。
どうしてもちょっとした違和感が漂うだろう。もちろん、混んだ車内で
そんなことをしたら、ほとんどの人が迷惑に感じるだろう。しかし、ボ
ックスシートの座席でビールを飲んでいてもまったく違和感はない。そ
れはやはり四角く囲まれた特別な空間だからなのだろう。仕事帰りに彼
を利用する人が、車内でささやかな晩酌を始めた。迷惑どころか、むし
ろほのぼのした光景になる。知らずと話もはずむ。

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