特集 フォトエッセイ 「青い海と白い砂」 −113系のある風景−  Page 8


「東京まで2時間ぐらいで行くよ。」とあの子は言った。あの子が初めて彼に乗
ったのは小学校の時。遠足でお花狩りに行くときが最初だった。それまではどこ
かへ出かけるときはいつも両親の運転する車。そして、あの子は中学生になると
彼に乗って初めて友達と東京へ出かけた。高校時代は学校へ通うために毎日彼に
乗った。彼は正確にあの子を学校のある駅へと運んでくれた。電車の中からなん
なく車窓を眺めながら、友達とおしゃべりをして学校へ向かい、家路をたどる。
そんなあの子、いやもう大人になった「彼女」はこの海辺の町を出て東京へ行っ
た。東京の学校へ通うには「2時間」は少し長すぎたのだ。しかし、彼には最後
まで彼女を運ぶことができなかった。そこから先は別の列車に乗って行った。
その彼女ももう学校を卒業し、社会に出ていく。慣れ親しんだ、彼が走るその地
へ戻ってはこない。
彼は思っている。
「あの子には東京ではなく、あの海辺の町が似合っているのにな。」と。その彼
ももう少しでこの土地を離れることになる。しかし、彼は東京へ行くのではない。
彼にもあの海辺の町が似合っていると思う。



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